大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)49号 判決

一 原告主張の請求原因事実のうち特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二 当裁判所は、審決は本願発明と引用例との比較対照を誤るものであり、この点において原告主張の違法があるものとして取消を免れないものと判断する。その理由は以下に述べるとおりである。

(一) 引用例記載の方法が原告主張のような第一工程、第二工程および精製工程を有するポリエステルの製造工程であり、これらが一体不可分のものであることは、被告も認めて争わないところである。

(二) これに対して、本願発明の方法については、原告は(1)から(5)までの工程が要件であると主張し、被告はエステル化反応後に水やグリコールを除去する(3)、(4)の工程は任意の工程であり、本願発明は(1)、(2)のエステル化工程と(5)の重縮合工程とよりなり、しかも、この両者は直結するものではなく、これら両工程の間に引用例記載のような工程が介在しても本願発明の要旨外であるということはできない旨主張する。そこで、この点について検討する。

(三) 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には原告主張の(3)、(4)の工程については明記されていないことが明らかである。しかし、同号証によれば、本願発明の発明の詳細な説明には「本発明はテレフタール酸および約三五重量%までイソフタール酸を含むテレフタール酸とジオールとの混合物を直接エステル化して…高分子量の線状ポリエステルにするに適するエステル生成物を得ることに関するものである。」旨(冒頭より五行まで)、そして、従来公知の直接エステル化法では、あるいはポリエステルにとつて不純物であるエーテル結鎖を生じ、あるいは反応容器内からスチームを抜くために同時にエチレングリコールの一部をも失うなどの欠点があり、産業的方法とはなり得なかつた旨(公報二ページ左欄二〇行より右欄一五行まで)、これらのことからフタル酸とジオールとの混合物を直接エステル化し、高分子量線状ポリエステルの製造に適するようなモノマーエステル生成物を工業的に生成しうるような方法を得ることが非常に要望されていた旨、本願発明はこの要望に応えたものである旨(二ページ右欄一六行より二八行まで)記載されていることが認められる。さらに、同号証の記載によれば、前記記載に引続いて、原告の主張する(1)、(2)のエステル化工程について記載された後このような方法でできた「清澄な流体のエステル反応生成物はフイルムやフイラメントに変えられる前に先ず冷却し固化する必要はない。エステル化反応がフイルムやフイラメントに造り得る高分子量の線状ポリエステルを生じる完成段階に入つたならば其れを冷却し固化するよりも其の清澄な流体エステル生成物を用いて直接進行するのが適当である。左様するには直接エステル化反応の直後にエステル化副生物の水および存在する過剰のジオールを全部除くことが必要である。」旨(三ページ右欄八行より一六行まで)、つづいて、これら副生物の水、過剰のジオールの除去の方法について具体的に説明し、引続いて他の工程を介在させることなく重縮合工程についての説明がなされている(三ページ右欄一六行より四ページ左欄二行まで、同ページ右欄二〇行より五ページ左欄二一行まで)ことが認められる。なお、同号証によれば、本願発明の実施例はそのいずれもが本願発明の方法を(1)直接エステル化、(2)水および過剰グリコールの除去、(3)重縮合の三段階よりなるものとしていることが明らかである。

(四) 以上、本願発明の明細書の記載を総合してみれば、本願発明の方法において原告の主張する(3)、(4)の工程は、(1)、(2)のエステル化工程から(5)の重縮合工程へ移行する際に技術上当然必要とされる工程と認めるべきである。そして、このように技術上当然必要とされる工程は、特許請求の範囲にいちいち記載することを要しないものと解すべきであるから、(3)、(4)の工程が本願発明の特許請求の範囲に記載されていないからといつて、被告の主張するような任意の工程であるということはできない。してみれば、本願発明の方法は、原告の主張するとおり(1)から(5)までの工程からなるものというべきである。そして、前記認定の本願発明の明細書の記載すなわち、本願発明の方法が(1)直接エステル化、(2)水および過剰グリコールの除去、(3)重縮合の三段階よりなり、その間に他の工程が介在することを全く考慮していない事実、また、本願発明の特許請求の範囲においても、エステル化「反応させて其れにより重縮合反応」させる旨記載されている事実よりみれば、本願発明の方法は、原告の主張するとおり、(1)から(5)までの直結した工程のみよりなり、その間に他の工程が介在するものではないと解するのが相当である。

被告は、本願発明によるエステル化生成物はポリエステル業者にそのままで売却することができるとの明細書の記載からみて、本願発明のエステル化工程と重縮合工程とは直結しているとはいえない旨主張する。しかし、この記載はエステル化工程と重縮合工程とが必ずしも時間的に接着することを要しないことを意味するにとどまり、この記載から、両工程の間に別個の工程が介在しうることを意味するものと解することはできない。

(五) ところで、引用例の方法においては、その第一工程においてエステル化反応がどの程度進行しているかは引用例中に明示されてはいないが、反応条件をほぼ同じくする本願発明のエステル化工程においてフタル酸の全カルボキシル基の少くとも五〇%がヒドロキシエステル基に変成されている以上、これよりも長時間にわたつて反応が継続されている引用例の方法においては(前記甲第二号証公報三ページ右欄五行から七行までの記載によれば、本願発明の方法では一般に〇・五~二時間の反応時間で充分であるとされている。これに対し、引用例の方法では二・五時間を要している。)少くとも、テレフタル酸のモノグリコールエステルが生成されているものと推認するのが相当である。そして、引用例の第二工程は、更に多量のエチレングリコールを添加し、テレフタル酸のビスグリコールエステルの製造を目的としているものであることは、成立に争いのない甲第三号証の記載(引用例一欄一五行より三五行まで)に照らして明らかであるところ、本願発明は、フタル酸の全カルボキシル基の少くとも五〇%がヒドロキシエステル基に変成されテレフタル酸のモノグリコールエステルが生成されれば足りるのであつて、前記明細書の記載を見ても、本願発明の(1)、(2)のエステル化工程と(5)の重縮合工程との間で引用例記載のようにさらにジオールを添加してカルボキシル基をさらにヒドロキシエステル基に変成させビスグリコールエステルの生成をはかるという思想は見当らない。

(六) してみれば、本願発明は前述した点において引用例記載のものとその技術思想および構成を異にするものである。しかるに、審決が本願発明と引用例との間にはテレフタル酸に対するグリコールの使用割合において微差がみられるほかはその処理操作において実質上の差異は認められないとしたのは、本願発明と引用例との比較対照を誤つた違法があるといわなければならない。したがつて、原告主張のその余の点について判断するまでもなく審決は

違法として取消を免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は正当として認容する。

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